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夏の思い出

アウトドア

北澤 和典

2022.06.30

遠くから波の音が聞こえる。遠くから子供たちの声が聞こえる。『・・・・ほら、起きな、暑いだろうに』母の声が聞こえると同時に冷たいタオルが私の額にそっと置かれた。プールの海面から顔を出した時のように周りの音が徐々に耳の中に入ってきた。体は火照りピリピリと痛い。眠りから覚めたばかりで力が入らない。無理に力を入れると体が震える。
目を開けると大きな麦わら帽子をかぶった母が心配そうに私を見ていた。
『あんた真っ赤じゃん』横でスクール水着を着た気の強い姉が笑いながら缶コーラを飲んでいる。
妹と父は波打ち際で砂を掘り何かを作っていた。

体を冷やすために海辺まで熱い砂浜を走る。
そのまま海の中へ飛び込む。今まで火照った皮膚がスーッと冷えていくのがわかる。
小さなうねりに揺られているとまた周りの音が海中に聞こえる水面の音と混ざり合いかすかに聞こえる。
目を開けると綺麗に砂紋が横並びになり太陽の差し込み光で幻想的な光景になる。
息も続かず海面から顔を上げると『お前さんは河童だな』笑いながら父が言った。夏になると毎日市民プールに通い、海に行けば殆ど海の中。手のひらがしわしわになるまで入っていた。夏が終わるころには毎年真っ黒に日焼けしていた。
浜に上がりスイカを食べ、冷えた真っ赤なプラムを食べるのが好きだった。後ろには足場丸太で作られた海の家、屋根はトタンで作っている。『氷』と書かれた暖簾が風に揺れて風鈴の音色が心地よかった。今のように流行りの音楽が狂ったように鳴り響くこともなく店の奥からラジオの音がかすかに聞こえるだけだった。今思い出してもどこの海か記憶がない。思い出すたびにまたあの海に行きたいと思う。ただ、幼いころに可愛がってくれた叔母が居た記憶もかすかにある。千葉なのか・・・な?。
あの頃の夏の風景は今でも覚えている。昭和の懐かしい海の風景。
なんだろう、あの時の風景にはあの時代の風と香りと優しさがあった。
今でもサップをして砂浜に寝転び目を閉じるとあの時の風と香りと優しさを感じるときがある。何とも言えない心地よい空間になる。

自然の音、風、潮の香、この三つの条件がそろったときに感じるのか。

害的なものが一つでも入るとこの空間は生まれない。
そんな事を思いながらサップに寝転び今年の夏の空を眺めています。
もうすぐ海の家ができます。音楽をガンガンとかけて楽しむ人も来ます。
狭いビーチの人込みでボールやフライングディスクを投げ合う人も出てきます。
お酒を飲み大声でふざける人、喧嘩する人、ゴミが飛ぼうと拾わずにいる人。
そう思うと早く夏が終わらないかなと思う自分もいます。夏の始まりと夏の終わりの静かな海が好きです。海に来たら耳を澄まし自然の音を聞き、風を感じてみてください。
気持ちの良い空間を感じることができます。音楽なんていらないのです。
やはり私は静かな海が好きです。

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